誰よりも何よりも


「私、ミランダのこと大好きよ。」


そう言って、頬を少し膨らましながらリナリーが呟く。
リナリーの真向かいに座って紅茶を飲んでいるアレンは、知ってますよ、と答えた。

「ミランダが不幸になるのは嫌なの。いつも笑っていてほしいし、幸せでいて欲しいわ。」

リナリーの言葉にアレンは無言を通した。人は誰でも幸福でありたいと願う。それが好きな相手なら
なおのことだ。―――――例え、自分達が置かれている立場が戦場だとしても。
けれど、リナリーがそんな返事を望んでいるわけではない、とわかっているアレンは
無言の肯定を彼女に示したのだ。

「それなのに、どうして………。」

リナリーの語尾に僅かな嗚咽が混じる。ちらり、とアレンが視線を彼女に向けると、リナリーは
今にも瞳を濡らしそうだった。大好きな彼女を想うがゆえの感情のあらわれ…。

「ミランダさんが、ラビを選んだことがそんなに嫌ですか?」
「嫌よ。だって…。だって、ラビは――――――――。」

そのうちいなくなってしまうじゃない、とリナリーは小さな声で呟いた。
ずっと戦場にいたリナリーの世界はとても小さい。それゆえ、彼女の世界に存在する大切な仲間は
彼女にとってかけがえのないもので、だからこそ切に、切に、彼らの幸せを願う。
ましてミランダは共に戦場に立つ仲間であり、姉であり、友であり、時には全てを包み込む母の
ような存在なのだ。

大好きなミランダだからこそ、最上級の幸福を願って止まない。大切なミランダだからこそ…。
もし彼女が誰かと手を携えて生きていく決意をしたならば、リナリーは寂しさを感じながらも、
ミランダを心の底から祝福しただろう。彼女が幸せならば、自分も幸せを感じられるから。
純白のドレスに身を包んだミランダを、きっと自分は真っ先に祝うに決まってる。

けれど。けれどけれど、大好きなミランダが選んだのはそんな幸福を与えることが出来ない人だった。
リナリーはラビ自身を嫌っているわけでは決してない。明るく朗らかで話していてとても楽しいし、
エクソシストの腕も確かでとても頼りになる。ラビ自身なら、リナリーには大好きで大切な人だ。
彼は時期ブックマンであり、エクソシストであってエクソシストではない。

たまたま教団側に身を置いているわけであり、完全な仲間というわけではないけれど、それでも
リナリーにとってラビは大切な仲間に違いはないのだ。ただ一点を除いて。
いつ何処かへいくかわからないのに、何も残さずに立ち去るのに、それなのにラビはミランダを選んだ。

ラビは聡明な男である。自分の置かれている立場を葛藤しながらも理解しているのだ。
だからこそ、ラビがミランダの手を取ったことは並々ならぬ決意の結果で、何一つ残せないと
わかっていても踏みとどまることができなかったゆえのことだ、とリナリーはわかっている。
わかっていても、許せないのだけれど。

「アレンくん。私、ミランダが悲しむのは嫌なの。そんな姿、見たくないわ。」
「そうですね…。」

ミランダが悲しみの涙を流すのをアレンとて望んでいるわけではない。笑っていて欲しいのは同じだ。
それでも…。

「リナリー。」
「なに?」
「確かに、ラビとミランダさんの行く先がとても厳しいものに変わりはありません。でも…。」
「でも?」

「こんなに広い世界で、これだけ大勢の人がいる中で、出逢うべき人に出逢い、そして一つの
感情を有することができることは、とても、とてもとても幸福なことじゃないでしょうか…?」
「アレンくん…。」
「その一つの感情を二人が有しているならば、この先に訪れるであろう、どんなに辛いことも
どんなに苦しいことも、それは二人にとって『不幸』には値しないと思います。」

「そう…かしら?」
「そう思いたいんです。僕が…。僕の勝手な思いなんですけどね。でも、あの二人が悲しむのは
嫌なんですよ。笑っていてほしいんです。特にミランダさんには…ね。」

ラビはどっちでもいいですね、と言うアレンの言葉にリナリーはちょっとだけ微笑んだ。

「そうね。ラビはどっちでもいいわ。ミランダが笑っていてくれるなら。そうよね?」
「勿論です。」

赤髪の男が聞いたら、酷いさ〜、と言われそうなセリフを言い合ってアレンとリナリーは笑った。
でも、二人とも心の底では願っている。少しでも長く二人が笑っていてくれるように。
少しでも長く、二人が一緒にいられるように。そして、





訪れる別離が少しでも、遠い未来であるように…。



<終わり>

大好きな貴女の笑顔が私の全てなのよ?