そしてまた


”いいお天気ね。”


雲一つ無い青空の下、あの人は小さく控えめな声でそう言った。
いつ何が起こるかわからない戦場に身を置いているせいか、たまの休みには
何もせずに、ぼうっと空を眺めるのが好きだったあの人――――。
そして、あまりにも戦いに似つかわしくない女性だった。

どちらかというと、いつもおどおどしていて、些細なことにビクついて、
いつも謝っていてばかりの人だったけれど、時々見せてくれる笑顔はまるで
花が綻んだようで、見ているこちらも思わずつられてしまったものだ。

”一緒にいてくれて、どうもありがとう。”

最後の時も彼女はそう言って笑っていた。その時の彼女の目に涙は浮かんでいなくて
ただただ木漏れ日のような笑みを見せてくれたのだ。
あの時の彼女の記憶は色褪せぬまま、今も鮮やかに脳裏に焼き付いている。


”私、ラビくんのこと…大好きよ。本当よ?”


頬を紅色に染めて小さな声で、はっきりと想いを告げてくれた人はもう、いない。
手を離したのは自分。去ったのも自分。それなのに背を向けた感情に今も苦しめられている。
さよなら、と、ヒラリと手を振ったのは紛れもなく自分だと言うのに。
そんな自分を咎めることなく笑顔で見送ってくれたあの人は、今はどうしているだろう?

それを知る権利など自分にはないのだけれど。隣に自分以外の誰かがいることなんて、
想像したくないけれど、それでも花が綻んだような笑顔が失われてなければ、なんて
勝手に思ってしまうから救いようがない。

「今日も空が青いさぁ。…ん?綺麗は花じゃん、これって。」

無意識の癖のせいなのか、歩いている途中で彼女が好きそうな花を見つけるとつい手にとって
しまいたくなり、花に触れる寸前でいつも思い出す。


―――この花を見せる相手はもう傍らにいないのだ、と。


「情けねぇさ、オレってば。」

やだね、未練たらしい男って、と小さく呟いてその場を通り過ぎたことは幾度あっただろう?
本当に馬鹿だな、と思いつつ、自分の仕事をこなすために再び歩き始めるのはいつものこと。






そしてまた、彼女が好きだった青空の下で、彼女がいない季節を迎える―――。



<終わり>

手を離したのは自分。それなのに、まだ君の手を求めてしまうんだ。