終わりのかたちは
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中で、二つの影が寄り添っている。
二人とも眠っているわけでもなく、無言のまま抱き締め合っているのだ。
言いたい言葉は喉まで出かかっているのに、なぜか言えなくて、
こうして黙ったままの二人。
日が昇れば、離れてしまう温もりに包まれてミランダは目を瞑った。
月明かりが消え、空が太陽の光に染められる頃、ミランダを抱き締めている
人は旅立ってしまう。それはあらかじめ決められていたこと。
ミランダは深く息を吐いた。その時、ラビの手が動き、ミランダの髪に触れる。
そっと顔を上げると、ラビがミランダを見下ろしていた。
その瞳から彼の感情を窺い知ることは出来ない。
「ミランダ。」
彼の心地良い声がミランダの耳をくすぐる。こんなにも自分の胸を締め付ける
声はもうすぐ失われるのかと思うだけで今にも涙が出てきそうだ。
でも、今泣いたらラビの顔が歪んでしまう。愛する彼の顔を鮮明に覚えておきたいから
だからミランダは必死に自分を叱咤した。
泣くのは後でいくらでもできるから、と。彼が去った後で好きなだけ泣けばいい。
だから泣くのはもう少しだけ待って。
そんなミランダの葛藤を知ってか知らずか、ラビはミランダに優しくキスをした。
恋人として最後のキスを。愛している証だと言わんばかりに。
「愛してる、ミランダ。」
「ラビくん…。」
「愛してる。」
「ラ…。」
「愛してる。」
「…。」
「愛してる…。とても、とても愛してる。」
「もう…やめて。」
これ以上聞きたくない、と耳を塞ごうとしたミランダの手を掴み、ラビはさらに
囁いた。愛してる、と。
「忘れんで、ミランダ。オレが愛してるのはミランダだけだから。」
ミランダの目をしっかりと見据え、ラビは思いの丈を告げる。
まるでこの先会えない時間の分まで愛の言葉を囁くと言わんばかりに、
ラビはミランダに愛してると言い続けた。
もうじき月明かりが消える。そうなれば、その言葉は違う言葉に変わってしまうのだ。
その言葉を口にする前に、ラビはミランダへ想いを告げ続ける。
ミランダはそれを黙って聞き続けた。
太陽よ、どうかもう少しだけ待って、と切望しながら。
だって、まだ”さよなら”の言葉は聞きたくないのよ。
<終わり>
さよなら以外の言葉なら何でも聞くのにね。