願い事を一つ


どうせ願うのであれば。


談話室で本を読んでいるラビの視線の先で、ミランダとリナリーがきゃあきゃあ言いながら
騒いでいる。二人が熱心に読んでいるのは所謂お呪いの本で、女の子が好きな恋愛がメイン
の代物だ。リナリーならともかく、ミランダまでもがはしゃぐのは珍しく、女はいくつに
なっても、そういう類が好きなんだな、とラビは微笑ましく視線の先で捉えていた。

「いっぱいあるのね。」
「たくさんあると迷っちゃうわ。」
「これなんて簡単そうじゃない、ミランダ?」
「そう?リナリーちゃんはどれにする?」

ミランダがお呪いをした相手がちょっと、いや、心底気になるラビであるが、だからといって
脅威になるとは思っていない。お呪い『程度』で満足するような相手ならば、それはラビに
とってライバルにすら値しない存在なのだ。本気で惚れた相手が、ちょっと夢に出たくらいで
満足できるような浅い感情であるはずがない。

だからラビは『今』の段階でミランダが誰に想いを寄せていてもかまわないと思っているのだ。
確かにそれが自分であるならば、その後は容易に彼女を手に入れられるわけだから、
こんなに楽なことはないけれど、どうせ最終的にミランダが自分の手にはいるのであれば、
ちょっと障害があったほうがおもしろくないか?とラビは思っているのだ。

ミランダが自分以外の所に行くとは露ほども思っていない。行かせるつもりも毛頭無い。
彼女が行き着く場所は自分で、それ以外ではあってはならないとさえ思っている。
端から見れば、ラビのその考えはゲーム思考か?と思いそうだが、もし彼がそれを聞いたら
否と答えただろう。ラビは本気でそう思っているのだから。

視線の先では、さっきと変わらずミランダとリナリーが楽しそうに笑っている。
ミランダが楽しいとラビも楽しい。屈託のない笑顔は素敵だと思っている。
けれど、その笑顔はみんなの前でだけ見せればいい。自分の前では、自分にしか見せない
笑顔を見せて欲しいものだ、とラビは内心で呟いた。

みんなが知っているミランダじゃなくて、誰もが知らないミランダが欲しい。
それを見つけるのは自分であり、また作り上げるのも自分だ。それはそれで楽しいかも
しれない、と本を読んでいるフリをしてラビはそう考えていた。
そんなラビの近くにミランダがそっと寄ってくる。

「ねえ、ラビくん?」
「ん?」

今まで本に夢中でした、という感じを装ってラビは本から顔を上げた。視線の先に
本を抱えて微笑んでいるミランダが立っている。

「どしたん、ミランダ?」
「ねえ、ラビくん。ラビくんならどんなお呪いがしてみたい?お願いごとが叶うかもよ?」

たくさんあるのよ、と楽しそうに頁をめくるミランダを見て苦笑してしまう。
いい年した男がお呪いなんて頼るわけがない。けれど、そんなふうに突っぱねることなんて
できやしないから、苦笑いを浮かべるしかできないのはちょっと情けないかもしれない。

「んー、オレは別にいいさ?」
「お呪い…きらい?」

嫌いなのを勧めてしまったのか、とミランダの顔には書いてあり(実際は書いてないが。)
そのわかりやすさに、ラビはプッと吹き出して否定した。

「ちゃうちゃう。そういうのは女の子の専売特許みたいなもんだから、
オレみたいな男には似合わんって。ミランダみたいに可愛い女の子がやったほうが
お呪いも喜ぶさ?」
「かっ!?可愛いってっ!?そ、それに私は、お、おおお女の子という歳じゃ……っ!!」
「お呪いが好きなのはみんな『可愛い女の子』だって。」
「も、もももうっ!!ラビくんなんて、し、しらないからっっ!!」

本を乱暴に閉じて頬を真っ赤に染めて、予想通りのリアクションをしてくれた
『可愛い』人にラビはクックッと笑う。ラビの笑い声を聞いたミランダは振り返って
キッと睨んだけど、ラビがにっこりと微笑んだらさらに顔を赤くして違う方を向いてしまった。
拗ねちゃったかな、と思ったけど、『可愛い』人のそんな姿は『可愛く』しか見えないから
ラビは笑いを堪えるのが大変だった。これ以上、拗ねられたくないんだけど、と思いつつ。

ラビは恋愛のお呪いにお願いするより、どうせなら神様に頼みたいな、とは思っている。
周囲の、特に神田やアレン辺りが聞いたら、神頼みなんて欠片もしなさそうに見える
ラビが、お願いごとがあるなんて知ったら、恐らく信じないであろう。
もしラビが一つだけ願うとするならば、―――オレの邪魔だけはしないで欲しい。




放っておいてくれれば後は自分で何とかするから、頼むよ神様!


<終わり>

邪魔だけはどうかご勘弁。