なんて今更
「本当にごめん、ミランダ。」
ミランダの側を去る日、ラビはそう言った。
時期ブックマンである彼は一つの場所に留まることは許されず旅立たねばならない。
それは二人が共にいることをいくら渇望しても覆されることのないことだった。
「ラビくんが謝ることはないわ。だって、最初からわかっていたことだもの…。」
ミランダとつきあう前にラビは言った。自分はいつか立ち去る人物であり、名前すら
残さずいなくなる存在だと。それでも『今』はミランダと共にいたいと言ったのだ。
そしてミランダはそれを受け入れ、それからの日々を二人は共に過ごした。
まるでずっと続くかのように甘く穏やかな日々。けれどそれはあっけなく崩れ去り、
ミランダが心から愛した男は今日、幾度となく呼んだ名前を捨てて旅立つ。
「謝らなければならないのは…私のほうよ。」
「ミランダ?」
「ラビくんの優しさにつけこんでしまったわ、私…。」
「そんなことないさ。オレの方こそ…。」
けれどミランダは顔を横に振った。本当にラビのことを想うのであれば、その手を取る
べきではなかったのだ。恐らく、ラビはミランダに告白した時、NOと言われることを
前提にいったはずだ。そこでケリをつけられれば、ほろ苦い思い出として過去の産物に
なったはずなのに、ミランダはラビの手を取ってしまった。自分も愛していたがゆえに。
ミランダはラビに愛された、という証が欲しかったのだ。ラビがいずれ去ってしまうので
あれば、どちらにせよ悲しみにぶつかるのであれば、それを支える甘い思い出が欲しかった。
その結果、ラビを深く傷つけることになってしまったとしても――――――――。
「私の我が侭で辛い思いをさせてごめんなさい…。ごめんなさい、ごめんなさい…。」
まるで呪文のようにミランダは繰り返し謝った。けれどラビはミランダにかける言葉が
見つからない。幼子をあやすように髪をそっと撫でることしかできなかった。
ミランダは、ラビの告白をNOを前提としたもの、と考えていたが、ラビはそうは思って
いなかった。ミランダは優しい女性だ。誰かが傷つくことを酷く厭う。
だからこそ、ラビの手を振り払うことは絶対に出来ないと確信していたのだ。
残される彼女の悲嘆がわかっていても、ラビは彼女からYES以外の言葉を聞くつもりは
最初からなかった。
ミランダを愛しているから。例え僅かな時間でもミランダを自分だけのものにしたいという
子供じみた感情を走らせただけのこと。ミランダが思うほどラビは優しい人間ではなく
また割り切った感情の持ち主ではなかった。ラビはただただ自分を満たす為だけに
行動を起こしたのである。それに連なるミランダの悲しみから目を逸らして。
「謝らないといけないのはオレのほうさ、ミランダ。」
自分の我が侭を通した結果ならば、いくらでも受け止めてみせる。けれど、やはり愛する人
の涙は想像していたとはいえ堪えるものがあった。でも、ラビにミランダを抱き締めることは
できない。もう、その資格はないのだ。
はらはらと涙を流すミランダを見てラビは唇を噛みしめる。ミランダへ手を伸ばしたいのを
必死に堪えながら、グッと拳を握りしめた。
こんなに近くにいながら触れられない苦しみは罪の証なのだから。
<終わり>
自分ばかりがいい思いをしてごめんね。それでも君が欲しかったんだ。