繰り返す日々


世間一般では、恋とは突然やってくると言われている。ついさっきまで気がつかなかった
気持ちに気づいた瞬間、人は恋に落ちる。相手は様々でまさに十人十色。人の数だけ心があり
その数だけ恋があるのである。同じものは二つとしてないのだ。
祝福したくなるような微笑ましい恋ならばよかっただろう。けれど、違う恋もあるのだ。

ラビとミランダの恋はまさしくそうであった。それなりの年頃の男女が手を取り合うならば、
お似合いね、と言われてもおかしくないのだが、そう結論づけるには二人の立場は複雑すぎた。
正確にはラビの立場だが。

これ以上進んではいけない、だからこの恋心は隠し通そう、と決意しても、それでも熱情を
込めた目で相手を見てしまうものである。せめてその視線が背中に送るだけにとどまって
いたならばともかく、運命の悪戯か、ふとした瞬間に二人の視線は重なってしまった。
そして気づいたしまったのだ。相手もまた自分と同じ感情を有しているということに。

ずっと気持ちを抑えていた状態で重なり合った視線はあまりにも破壊的で。
募り募った想いはもはや自分自身でどうにもならないほどにふくれあがってしまったのだ。

「…愛してる。」

僅かに震えた手でラビはミランダの頬を撫で、掠れるような熱い声で想いを告げた。
ラビの気持ちを受け止めたミランダはラビの目を見て微笑んだのだ。それはいつも
浮かべる笑みとは違う、恋い慕う相手にしか見せない笑み。
ミランダはラビの手をそっと握った。自分も同じだと。同じように愛している、と。

「ラビくん。お茶が入ったわよ?」
「サンキュ、ミランダ。」

エクソシストとして働く二人は、命令一つで世界各地へと赴かねばならない。
だからこそ、こうして一緒にいられる休息はなによりも大事なものなのだ。
僅かな時間しか共にいられない二人。それでもミランダは幸せだった。
難しい立場のラビは全てを承知で、そんな思いをしてまで自分を選んでくれたのだから。

ラビはミランダに対しいつも優しかった。ミランダをとても大事にしてくれて、そして
包み込むかのように愛する。だからミランダは幸せなのだ。
ずっと一緒にいられない寂しさは、自分一人でラビへの想いに心を痛めていた頃に比べたら
どうってことはない。彼に愛されている。それだけでミランダの全てが満たされるのだから。

それに対し、ラビは心のどこかで翳りを持っていた。ミランダを心の底から愛している。
そのことに嘘偽りはなく、大切にしてやりたいといつも思っている。
けれど、繊細で儚げな印象のミランダに、苦味をもたらす恋を強いるのは正直辛かった。
そんなラビにミランダはいつも優しく諭す。

”ラビくんだから受け入れているのよ?”

他の人だったら逃げちゃうわ、と笑うミランダをきつく抱き締めたことは何度あったことか。
愛している、という事実だけでここまで突き進んできた。そして引き返さないと決意した。
今さらそんなことを考えるのは馬鹿らしいとわかっている。わかってはいるが、それでも
こうして二人でいる限り、その考えの呪縛から逃れられないこともラビは知っている。

だからといってこのことから逃げるわけにもいかず、そしてミランダに負担をかけたくない
からラビは自分一人で背負う覚悟を決めていた。この恋が苦さや辛さをもたらしたとしても、
それでもミランダの笑顔だけは守りたい。ひっそりと咲く花のように穏やかに微笑む彼女が
側にいてさえくれるならば、背負う荷の重さは苦になることは全くないのだ。

ちらり、と横を見れば、ミランダが美味しそうに紅茶を飲んでいた。
彼女の嬉しそうな横顔を見るたびに、自分の心は翳りで覆われていくことだろう。
それでも、かまわない。自分の心なんて、どうだっていい。
ただ彼女が、愛するミランダが微笑んでいてくれたなら。それだけで――――――。






自分はどんな苦しみだって受け止められる。


<終わり>

どうか泣かないで、いつも笑っていて。それだけがオレの願い。