季節は廻り


あの頃は、なんて今さらながらに思う。確かに自分は幸せだったのだ、と。


初めて迎えた君との誕生日。彼女が一生懸命作った少し不格好な甘いケーキに
歳の数だけさした蝋燭。一息で火を消した自分の目に映ったのは、はにかんだ
君の笑顔とお祝いの言葉だった。

”おめでとう。”

簡素な5文字の言葉に込められた最上級の祝福の言葉は柔らかい声色にのって届けられた。
食べるのに邪魔だからと、白く細い指が一本一本蝋燭を抜いていく。
そしてポツリと彼女は呟いた。

”この蝋燭の一つ一つが、ラビくんの人生なのね。”

蝋燭の小さな束を優しく見つめる彼女を見て愛おしさが募った。
この先もずっと、蝋燭が一本ずつ増えていくのを共に過ごせたらどんなに幸せだろう、と。
柔らかい微笑みを、彼女の傍らで見つめられたらどれだけ嬉しいのだろう、と。
その全てを想像するしかない自分の現実と未来に深い溜息が零れた日々。


その全てを今は、ただ懐かしいと思う。


彼女と過ごした日々は今となっては短い春のようで。幸せだった、本当に。
心募るほど愛した人が今はどうしているか知らない。知る術もない。いや、知ろうとすれば
できるのかもしれないが、自分も彼女もそれを望んでいないのだ。

”貴方は貴方のままでいてね。”

去りゆく自分に彼女はそう言った。覚えていて、とも忘れないでいて、とも言わずに。
自分達はそれぞれ歩いていく道がある。ただ少しだけ重なった時間を共に過ごしただけで、
道が分かれれば繋いだ手は自然と離れていくのだ。それは最初からお互いにわかっていたこと。
だから彼女は微笑んで自分を見送ったのだ。

彼女といた短い日々は本当に楽しかった。二人していつも笑っていた。
振り返ればいつだって其処に愛おしい人の笑顔が溢れていたあの日々が戻ることは決してない。




もう二度と、永遠に。




<終わり>

心はあの時から動けないまま、時間だけが過ぎてゆく。