けれど変化などなく


最初、勘違いかな、と思った。次ぎに思い過ごしかな、と思った。
何度も何度も自分の気持ちを確かめた結果、出た答えは予想した通り、
ミランダを愛している、という事実だった。何を今さら、という感じだが。

けれど自分の立場を考えると手放しに喜べるどころか、どうしよう?と思う
ばかりで、でもこのままじゃ進むことも戻ることもできないのだ。
自分の心をスッキリさせるためには、ミランダに告白して、事情を説明して
ハッキリと振ってもらうしかないだろう。

…振られることを前提とした告白ほどみじめなものはないが。
それでも、うじうじ悩むのは性に合わない、とラビは意を決して
ミランダに思いの丈を告げた。心の底から愛している、と。
ラビの告白を受けて、ミランダは目を丸くして驚いている。

それはラビが想像した通りで、半ば混乱しているミランダを落ち着かせるように
ゆっくりと話しかけた。

「ここまで言って何を、と思うかもしんないけど、多分、辛いと思うんさ。
オレはブックマンだから、他のエクソシストとは違う。ずっと此処にはいられない。
普通の人が思い描くような幸せなんて、きっとあげらんないと思う。
だからミランダ。嫌だったら遠慮無く断ってくれていいよ?
どっちかっていうと、そっちの方がいいかもしんない。」

そう言って自嘲気味にラビは笑った。ミランダに手を差し伸べたまま。
さっきまで慌てていたミランダも落ち着きを取り戻したのか、ラビの手に視線を向けた。
その手をジッと見つめながら、ミランダは小さな声で喋り始める。

「ねえ、ラビくん。」
「ん?」
「私、きっとみっともないほど泣くと思うわ。何もそこまで、って思うほど
泣き喚くと思うの。もしかしたら、ラビくんの頬を叩いてしまうかもしれない。
情けないほど取り乱して、喚き散らして、そしてきっとラビくんに縋ってしまうに
違いないわ。だから…。」

ラビの手を見つめていたミランダの視線が上に上がり、二人の視線が交差した。
ミランダの泣くのを堪えた瞳がラビの目に映る。

「そんな私を見たくないと、受け止めたくないと思うならば、今すぐに
その手を引っ込めてほしいの。………私が縋りついてしまう前に。」
「ミランダ…。」
「お願いよ、ラビくん。今すぐその手を戻して。そうじゃないと私…。」

”一度縋ってしまったら、もう戻れなくなってしまう。”

ミランダが話し終えるより先に、ラビの手がミランダの手を掴み、一気に引き寄せた。
空気が入る隙間すらないほどきつくきつく抱き締める。そのあまりの強さに、ミランダは
くぐもった声をあげた。でもラビの腕は緩まない。

「ごめん…ごめん、ミランダ。」
「謝らないで…。」

別れが来ることなんてわかっている。辛いことだってわかっている。
きっと想像がつかないくらい悲しみに暮れる日々が訪れることもわかっている。


それでも、想像上の未来に怯える必要など全くないのだ。


先が見えるからと言って、見えるだけでは何の意味もない。
そこに立っていてこそ意味がある。そしてわかることがあるのだ。
行き着いた先は絶望かもしれない。悲嘆かもしれない。それでも『想像した未来』より
遥かに意味を成すものにきっと間違いはないだろう。

一人で想像上の未来に怯え心に蓋をするくらいならば、二人で共に在って、
行き着くことこそ意味を持つのだ。心が納得した上で負った傷ならば、それは二人にとって
なによりもかけがえのない宝になることだろう。

「愛してる、ミランダ。だから…一緒にいよう?」
「ええ、もちろん。」

迷いに迷った。互いの為に、退いた方がいいとも思った。
悩んで悩んで、結局はこうして二人で向き合ってしまったけれど。
二人して、手を取らないでと言いながら抱き合っているのだから本末転倒としか言いようがない
のは重々承知の上。でも、きっとどんなに悩んでも考えてもこの選択肢を取っただろう、と
漠然とわかっている。だって、愛する人を前にしてどうして背を向けられるというのか。

”許されるその瞬間まで共に。”


二人がそれを望んだならば、それだけで共に在ろうとする理由になる。
そして、案外、想像した未来は思っているより遠かったり、また違うものになったり
することだってあるのだ。だから今は自分の心に忠実に従って。




今までと変わることなく、目の前の人を深く深く愛するのだ。


<終わり>

愛したいだけ。ただそれだけなんだよ。