いつか帰る場所
二度と戻れない場所を、思っている。
”ごめんなさい、ラビくん。”
最後の最後まで自分の想いを拒んだ、もう会うことのない愛しい人を今では軽く憎んでいる。
彼女はついに最後まで彼の手を取ることはなかった。貴方の邪魔になりたくないの、と
泣き腫らした顔でラビからの想いを拒み続けたたった一人の愛する人。
邪魔じゃないから、と言っても彼女が頷いたことは一度としてなく、静かに首を横に振ったのだ。
後ろ髪引かれる思いで旅立ちたくないから、少しだけ自分の我が侭を通させて、と言っても
彼女は頑として拒絶した。理由と問うと、震えながら彼女は教えてくれた。
”ラビくんが自分の我が侭を通したいように、私は私の我が侭を通したいの。”
吹っ切れる為に思いを受け入れて欲しいラビとは異なり、ミランダはこの先を進んでいく為に
ラビの想いを拒絶したかったのだ。甘い言葉も優しい温もりも自分には必要ない、と。
ミランダ一人の想いだけならば、彼女はどれほど傷つこうとも立ち直ることができる。
けれどそこにラビから与えられたものが混ざってしまったら、もう二度と立ち直ることが
できなくなってしまう。自分のことを想ってくれるならば、お願いだからそっとしておいて、と
小さい声ながらもハッキリとミランダは言い切った。
ラビもミランダも互いを愛している。けれど、その先が二人は正反対だったのだ。
それは最後まで折れることなく、重なることなく、そして二人は道を分かった。
別れた直後は、頑なに自分を拒みきったミランダに対し恨みさえ持ってしまった。
一瞬だってよかったのに。ほんのちょっとだけでも受け入れてくれたら、そうしたら
自分はもっと心晴れやかに旅立てたのに、と。
自分より7つも年上なのだからそれくらい受け止めてくれても、と傲慢な思いさえあった。
年月が経った今では、そんなことを考えていた自分を殴りたい気持ちでいっぱいだ。
いくら彼女が年上だからとはいえ、ラビとミランダが出逢って別れた時間は同じなのだ。
出逢うまでの時間は違えど、過ごした時間は一秒たりとも違ってはいない。
それなのに自分のことばかり押しつけて相手の心など顧みなかった。そんな余裕など
なかったとはいえ、愛する人に対してなんて酷い仕打ちをしてしまったのだろう、と
今は申し訳なさで溢れている。幼かった、では許されないのだ。
愛する人に何一つ残してやれないのならば、小さな我が侭一つくらい叶えるべきだった。
そうすれば少なくとも彼女には楽しい思い出くらい残してあげられただろうに。
何よりも大切で、誰よりも愛していた彼女に自分は痛みしか残さなかったのだ。
そのことが今でも胸を疼かせる。最低だ、と。
通り過ぎてしまった過去は今さらやり直すことはできず、まして繕うこともできず、
痛みを抱えたまま終わることのない旅を今も続ける。
二度と戻れない場所を思いながら。
<終わり>
それでも君を愛している。